電気主任技術者の外部委託 費用相場|選任義務・契約形態・自社雇用との比較表

50kVA以上の高圧受電設備(キュービクル)を持つ事業所は、電気事業法に基づき電気主任技術者の選任が義務づけられています。自社で第三種電気主任技術者を雇用する余裕がない中小規模の事業所では、外部委託(保安管理業務委託)が現実的な選択肢になります。
本記事では電気主任技術者の選任義務、外部委託の制度・費用相場、契約形態、業者選定の注意点まで、施設管理者・総務担当者向けに体系的に解説します。法令対応を怠ると経産省からの指摘・電力会社からの送電停止リスクがあるため、契約形態と費用は正確に把握しておきましょう。
電気主任技術者の選任義務とは
電気事業法第43条で、事業用電気工作物(高圧受電設備等)を設置する事業者は、電気主任技術者を選任して経産省に届出る義務があります。対象になる設備の目安は以下のとおりです。
| 受電方式 | 容量 | 選任義務 |
|---|---|---|
| 低圧受電 | 50kVA未満 | 不要(一般用電気工作物扱い) |
| 高圧受電 | 50kVA以上 | 必須 |
| 高圧受電 | 5,000kW未満 | 第三種電気主任技術者でOK |
| 高圧受電 | 5,000kW〜50,000kW未満 | 第二種電気主任技術者必要 |
| 特別高圧受電 | 50,000kW以上 | 第一種電気主任技術者必要 |
重要:選任を怠ると、電気事業法違反として経産省からの指導・処分の対象になります。電力会社が新規送電を承認しないケースもあるため、キュービクル設置時には選任手続きを並行で進める必要があります。
中小規模の一般的なオフィスビル・店舗・倉庫は概ね「高圧受電 5,000kW未満」の枠に入り、第三種電気主任技術者の選任で対応可能です。本記事ではこの最も一般的なケースを中心に解説します。
選任の3つの選択肢
電気主任技術者の選任には、3つの方法があります。事業所の規模・予算・運用方針に応じて選びます。
選択肢1:自社雇用(専任選任)
自社で第三種電気主任技術者の有資格者を雇用し、専任の電気主任技術者として届出ます。年間人件費は500万〜700万円規模。複数事業所を持つ大企業や、24時間操業の工場・データセンターで採用される形態です。
- メリット:常駐対応・即時判断が可能、社内のノウハウが蓄積される
- デメリット:人件費が高く、有資格者の採用も困難(電気主任技術者の有効求人倍率は高水準)
選択肢2:外部委託(保安管理業務委託)
経産省登録の保安管理業者と委託契約を結び、月1回程度の現地点検と緊急時対応を委託します。中小規模の事業所で最も一般的な選択肢で、年間費用は12万〜60万円程度に収まります。
- メリット:費用が安く、専門性も担保される。複数業者から見積を取って比較できる
- デメリット:常駐ではないため緊急対応に時間がかかる、業者ごとの対応品質に差がある
選択肢3:兼任選任
自社の他業務と兼任で電気主任技術者を選任する方法。ただし兼任には経産省の承認が必要で、要件が厳しく中小事業所では現実的ではありません。社内に有資格者がいる大企業の一部で採用される形態です。
中小規模事業所であれば、選択肢2(外部委託)を選ぶのが定石です。次節以降は外部委託を前提に費用と契約形態を解説します。
外部委託の費用相場
保安管理業務委託の費用は、受電容量・点検頻度・緊急対応有無で決まります。直近の見積実績ベースで、相場は以下のとおりです。
| 容量 | 月次点検 | 年次点検 | 緊急24時間対応 | 月額相場 |
|---|---|---|---|---|
| 100kVA以下 | 月1回 | 年1回 | 含む | 12,000〜20,000円 |
| 100〜200kVA | 月1回 | 年1回 | 含む | 18,000〜28,000円 |
| 200〜500kVA | 月1回〜隔月 | 年1回 | 含む | 25,000〜45,000円 |
| 500〜1,000kVA | 月1回 | 年1回 | 含む | 40,000〜60,000円 |
| 1,000kVA超 | 月1回 | 年1回 | 含む | 60,000円〜(個別見積) |
上記は標準的な外部委託契約の場合。遠隔監視装置を導入している場合は10〜20%安くなるケースもあります。
年間で見ると、100kVAクラスで14万〜24万円、500kVAクラスで48万〜54万円。自社雇用(500万〜700万円)と比較すると、外部委託のコストメリットは明らかです。
費用を左右する4つの要因
外部委託費用は容量だけでなく、以下の要因で上下します。見積比較の際には、これらの条件を揃えて依頼することで比較精度が上がります。
- 点検頻度 月次点検が標準ですが、規模や運用要件により隔月や3ヶ月毎の契約もあります。月次は法令上の標準で、保険会社・元請からの要件もあるため、特殊事情がない限り月次が推奨です。隔月にすると月額は10〜15%下がりますが、突発故障の発見が遅れるリスクが増します。
- 緊急対応の応答時間 標準は2時間以内の現地到着ですが、24時間365日・1時間以内対応など条件を厳しくすると月額が10〜30%上がります。データセンター・物流倉庫など停電影響が大きい業種は厳しい条件で契約します。逆にオフィスビルなら2時間応答で十分なケースが多いです。
- 遠隔監視装置の有無 常時監視装置を導入していると、現地点検頻度を下げられるため月額が下がります。ただし装置代(50万〜200万円)が初期費用として発生します。5年スパンで見ると元が取れることが多いですが、初期投資の回収計画を立てた上で導入判断します。
- 委託先の業者規模・地域 大手保安管理会社は安心感がある反面、月額が高め。地域密着の中小規模業者は安い反面、緊急対応のリソースが限定的なケースもあります。事業所の所在地と業者の拠点距離も応答時間に影響するため、可能な限り近隣の業者を選ぶのが基本です。
契約形態の選び方
保安管理業務委託の契約形態には、以下の2パターンがあります。中小規模事業所では「包括契約」が標準です。
| 契約形態 | 特徴 | 向いている事業所 |
|---|---|---|
| 包括契約 | 月次点検・年次点検・緊急対応・法定届出をすべて含む | 一般的なオフィス・店舗・工場 |
| 個別契約 | 月次点検のみ、年次点検は別途 | 自社で部分対応できる大規模事業所 |
包括契約の利点は、届出手続き・電力会社対応まで含めて任せられるため、施設管理者の負担が大幅に軽減される点。月額は若干高めですが、自社で対応する手間と漏れリスクを考えると、トータルで合理的です。
個別契約は、自社に電気主任技術者の有資格者がいて、一部の業務を内製化する場合に選びます。中小規模では珍しいパターンです。
業者選定で確認すべき5項目
外部委託先を選ぶ際は、以下の5項目を必ず確認します。安かろう悪かろうの業者を選ぶと、点検漏れ・緊急時対応遅延・電力会社対応ミスなどで結局コストがかかります。
- 経産省の登録保安管理業者か 電気主任技術者の保安管理業務は、経産省への登録が必須。無登録業者は法令違反です。登録番号を必ず確認し、経産省のWebサイトで照会しましょう。
- 緊急対応の応答時間と体制 24時間対応か、応答時間は何時間以内か、夜間・休日の体制はどうかを確認。書面で約束させます。「対応します」という口頭約束だけでは、緊急時に動いてくれない可能性があります。
- 点検報告書の品質 実際の点検報告書サンプルを見せてもらいます。絶縁抵抗値・温度測定値・劣化状況メモなど、データが具体的に記載されているか。形式的な「異常なし」だけの報告書は、後の更新判断に活かせません。
- 電力会社対応の経験 キュービクル更新時・契約変更時の電力会社対応経験があるか。経験が豊富な業者は手続きがスムーズで、立会い日程の調整も早いです。
- 遠隔監視装置の対応可否 将来的に遠隔監視を導入する可能性がある場合、自社装置を持っているか・他社装置に対応可能かを確認。ベンダーロックインを避けるためにも、複数装置に対応できる業者の方が柔軟性があります。
委託先変更のタイミング
既に委託契約を結んでいる場合でも、以下のタイミングで見直しを検討します。漫然と同じ業者と契約し続けると、市場相場との乖離に気づかないこともあります。
- キュービクル更新時:更新後の保護リレー設定変更を機に再選定。新しい設備に対応できる業者か確認するチャンス
- 委託先の対応品質低下時:報告書の質が下がった、緊急対応が遅い、担当者の異動が頻繁、などの兆候があれば見直し
- 月額が相場より明らかに高いとき:他社見積を取って交渉材料にする。同条件で20%以上の差があれば再交渉の余地あり
- 契約期間満了時:通常1〜3年契約。満了前に複数社の見積を取る習慣をつける
委託先変更は、契約期間中でも可能ですが、引継ぎ期間(1〜2ヶ月)の確保と、過去の点検記録の引継ぎを忘れないようにします。新業者には過去3年分の点検記録を共有し、設備の劣化進行度を把握してもらいます。
自社雇用・外部委託・兼任の意思決定表
「自社で雇うべきか、外部委託すべきか」を、事業所の条件から判断できる意思決定表です。中小規模はほぼ外部委託が最適解になりますが、規模・操業形態で例外もあります。
| 条件 | 自社雇用 | 外部委託 | 兼任選任 |
|---|---|---|---|
| 受電容量100〜500kVA・単独事業所 | × 割高 | ◎ 最適 | △ 承認要件厳しい |
| 24時間操業(工場・DC) | ○ 即時対応 | △ 駆けつけ要 | × |
| 複数事業所(合計2,000kVA超) | ○ 一括管理 | ◎ 一括委託割引 | △ |
| 社内に第三種有資格者あり | ○ | ○ | ○ 承認次第 |
| 年間予算50万円以内に抑えたい | × 人件費500万〜 | ◎ 12万〜60万円 | △ |
| 緊急対応1時間以内が必須 | ◎ 常駐 | ○ 条件付き契約 | △ |
判断の起点は「受電容量」と「操業形態」。中小の単独事業所で予算を抑えたいなら外部委託、24時間操業で停電影響が極大ならば自社雇用や厳しい応答条件の委託契約、というのが基本線です。
自社雇用 vs 外部委託の費用比較(年間)
| 項目 | 自社雇用 | 外部委託 |
|---|---|---|
| 年間コスト | 500万〜700万円(人件費) | 14万〜72万円 |
| 緊急時の対応 | 常駐・即時 | 応答時間2時間以内が標準 |
| 採用・育成の手間 | 大(有資格者は採用難) | なし |
| ノウハウ蓄積 | 社内に残る | 業者依存 |
| 向いている規模 | 大規模・24時間操業 | 中小規模・単独事業所 |
中小規模の事業所では、外部委託が年間コストで桁違いに安く、専門性も担保されるため、特段の事情がない限り外部委託が定石です。
よくある質問(FAQ)
Q. 電気主任技術者の外部委託費用はいくらですか? A. 保安管理業務委託で、100kVA以下なら月額12,000〜20,000円、500kVAクラスで40,000〜60,000円が相場です。年間では14万〜72万円程度になります。
Q. 外部委託と自社雇用、どちらが得ですか? A. 中小規模の単独事業所はほぼ外部委託が得です。自社雇用は人件費500万〜700万円かかるため、24時間操業や複数大規模拠点でない限り外部委託が合理的です。
Q. 委託しないとどうなりますか? A. 50kVA以上の高圧受電は選任が法令義務です。怠ると電気事業法違反として経産省の指導・処分の対象になり、電力会社が新規送電を承認しないこともあります。
Q. 委託先はどう選べばいいですか? A. 経産省の登録保安管理業者か(登録番号を照会)、緊急対応の応答時間、点検報告書の品質、電力会社対応の経験、の4点を必ず確認し、3社程度の相見積もりで比較します。
自社の容量・対応条件での正確な月額は、相見積もりで比較するのが確実です。電気・空調 見積り.com で容量・緊急対応条件を伝え、複数の保安管理業者から見積を取りましょう。
委託契約を結ぶ前に確認する実務
「外部委託にする」と決めた後、実際に契約書を交わす段階でつまずく点をまとめます。保安管理業務の委託は電気事業法に基づく届出を伴うため、通常の業務委託契約とは確認する箇所が異なります。
契約書で必ず確認する5項目
| 項目 | 見るべき点 |
|---|---|
| 業務範囲 | 月次点検・年次点検・緊急対応・法定届出のどこまでが含まれるか。届出代行が別料金の契約がある |
| 緊急対応の定義 | 「対応する」だけでなく、何時間以内に到着するか、夜間・休日の扱い、出動料金の有無 |
| 契約期間と更新 | 自動更新か、更新時の値上げ条項があるか |
| 解約の予告期間 | 3か月前予告が多い。次の委託先を決める前に解約すると無選任期間が生じる |
| 責任の範囲 | 点検で見落とした不具合による事故の扱い、保険加入の有無 |
業務委託・請負・派遣の違い
保安管理の外部委託は委託(準委任)契約が基本です。派遣や請負と混同されることがありますが、扱いが変わります。
- 委託(準委任):業務の遂行そのものを任せる。保安管理業務委託はこれに当たる
- 請負:成果物の完成に対して責任を負う。設備工事はこちら
- 派遣:自社の指揮命令下で働かせる。保安管理では原則使わない
委託先の技術者に対して自社が直接作業指示を出すと、実態が派遣とみなされるおそれがあります。点検日程や立会いの調整は行っても、点検の手順そのものは委託先の判断に委ねてください。
届出のタイミングに注意
委託先を決めてから届出、ではなく、契約と届出はセットで進めます。委託先変更の際に前の契約を先に切ってしまうと、選任者が不在の期間が生じます。新旧の契約期間が重なるように調整するのが実務上の安全策です。
まとめ
電気主任技術者の選任は法令上の義務であり、外部委託(保安管理業務委託)が中小規模事業所の現実的な選択肢です。
- 50kVA以上の高圧受電は選任必須、自社雇用は人件費500万〜700万円
- 外部委託は月額12,000〜60,000円が目安、容量・対応条件で変動
- 契約は包括契約が標準、緊急対応応答時間と報告書品質で業者を比較
- キュービクル更新・契約期間満了のタイミングで委託先見直し
法令対応の安心感と費用のバランスを定量的に把握し、3社程度の見積を取って契約することが、安定した保安体制の基本になります。




