偽装請負にならない指示のしかた|請負と労働者派遣の境界

協力業者に来てもらって作業を進めるとき、現場の担当者が直接あれこれ指示を出す。よくある光景ですが、契約が請負であるならこの形は問題になりえます。この記事では請負と労働者派遣の境界を整理し、現場で実際にどうすればよいかを扱います。
なお個別の該当性は実態で判断されます。判断に迷う場合は社会保険労務士や弁護士にご確認ください。
何が問題になるか
契約の形が請負であるにもかかわらず、実態が労働者派遣に当たる場合、偽装請負と判断されるおそれがあります。
問題になるのは、契約書の文言ではなく実態です。「請負契約書があるから大丈夫」ではありません。
判断される要素
一般に、次のような点から実態が判断されます。
| 観点 | 請負に近い | 派遣に近い |
|---|---|---|
| 業務の遂行方法 | 請負業者が自ら指示する | 発注者が直接指示する |
| 労働時間の管理 | 請負業者が管理する | 発注者が始業終業を指示する |
| 服務規律 | 請負業者が定める | 発注者の規律に従わせる |
| 配置の決定 | 請負業者が決める | 発注者が誰をどこに配置するか決める |
| 資材・機械 | 請負業者が自ら調達する | 発注者が用意する |
| 企画・技術 | 請負業者の判断で行う | 発注者の指示どおりに行う |
| 責任 | 完成に対して責任を負う | 労働力の提供 |
「誰が作業員に指示を出すか」が中心的な論点です。
現場での指示のしかた
請負として運用するなら、指示の経路を守ってください。
やってはいけない形
- 元請の担当が、協力業者の作業員に直接作業内容を指示する
- 元請が作業員の始業終業を管理する
- 元請が「この人はこっちに」と配置を決める
適切な形
- 元請は協力業者の責任者(職長)に伝える
- 職長が自社の作業員に指示する
- 元請は結果を確認する
「職長を通す」という1点で、大半は整理できます。
ただし安全に関する指示は別
安全衛生に関する事項は、元請に法令上の責任があります。
- 危険な作業の中止
- 安全設備の使用
- 立入禁止区域の指示
- 災害発生時の避難指示
これらは直接指示できます。 混同して「安全のことも言えない」となると本末転倒です。「作業の進め方」と「安全の確保」は分けて考えてください。
常用(手間請け)との関係
建設業では「常用」という形がよく使われます。時間単位で人工を出してもらう形です。
- 常用でも、請負契約として整理する方法はある(作業の完成に対して報酬を払う形)
- ただし実態が時間で管理されているなら、派遣に近づく
- 労働者派遣は建設業務では原則として認められていない
建設業務への労働者派遣は禁止されています。 したがって「派遣で人を入れる」という選択肢自体が取れません。だからこそ、請負として適切に運用する必要があります。
一人親方への依頼については関連記事「一人親方・応援職人の探し方」で扱っています。
避けるための実務
- 契約の形を先に決める(請負か、雇用か)
- 職長を必ず立ててもらう(1人で来る場合の扱いを決める)
- 指示は職長に伝える
- 作業内容を書面で渡す(口頭のやり取りを減らす)
- 時間ではなく成果で管理する
- 道具は原則として請負業者が用意する
2番目が実務では難しい場面があります。 1人だけ応援に来てもらう場合、その人が職長も兼ねる形になります。その場合は、作業の範囲を明確にして自らの判断で進めてもらう形にしてください。
書面で渡す作業指示
口頭のやり取りが増えるほど、直接指示に近づきます。書面にすると経路が整理されます。
- その日の作業範囲
- 完成の状態
- 使用する材料
- 注意事項(安全、他職種との調整)
- 連絡先
朝礼で紙1枚を職長に渡す運用にするだけで、形が整います。
朝礼と作業指示の設計
指示の経路を保つには、朝礼の設計が効きます。
- 元請が全体の予定と安全事項を伝える(これは直接でよい)
- 各社の職長が自社の作業内容を伝える
- 元請は職長と作業範囲を確認する
- 作業中の変更は職長を通す
2番目を職長にやってもらうことが要点です。 元請が全員に細かい作業指示を出す朝礼になっていると、形が崩れます。
記録に残しておくこと
指摘を受けたときに説明できるよう、次を残してください。
- 契約書(請負であることが分かる内容)
- 作業指示書(職長宛てになっていること)
- 施工体制台帳、作業員名簿
- 打ち合わせの記録
「実態がどうだったか」を示せる材料が必要です。 契約書だけでは足りません。
よくある質問
Q. 一人で来てもらう場合はどうするか A. その方が自らの判断で作業を進められるよう、範囲と完成の状態を明確にしてください。時間で管理する形にしないことが要点です。
Q. 急ぎの変更を直接伝えたい A. 職長に伝えて、職長から作業員へという経路を保ってください。職長が現場にいない体制自体を見直す必要があります。
Q. 安全の指示もできないのか A. できます。安全衛生は元請の責任範囲です。作業の進め方の指示と分けて考えてください。
Q. 常用は違法なのか A. 常用という言葉自体が違法なのではなく、実態が問題になります。請負として適切に運用できるかで判断してください。
Q. 一人親方に来てもらう場合も同じか A. 同じ観点で見られます。時間で管理する形にせず、作業の範囲と完成の状態を明確にしてください。
Q. 職長が現場を離れる時間帯は A. 連絡が取れる体制にしておくか、代行者を決めてください。誰も指示できない時間帯を作らないことです。
まとめ
請負契約であっても、実態が労働者派遣に当たれば偽装請負と判断されるおそれがあります。判断は契約書の文言ではなく実態で行われ、中心的な論点は「誰が作業員に指示を出すか」です。元請は協力業者の職長に伝え、職長が自社の作業員に指示する経路を守ってください。ただし安全衛生に関する指示は元請の責任範囲なので、直接行えます。建設業務への労働者派遣は原則として認められていないため、請負として適切に運用することが前提になります。
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